ランニングの常識を疑う。本当に正しいの?勘違いして解釈してませんか?

ランニング知識

フルマラソンや駅伝のテレビ中継を見ていると、解説者がランナーのフォームを褒めるときに「腰高のよいフォームですね」「腕が良く振れています」などの表現をします。これを聞いたランナーは「腰の位置は高くするのが良いんだ」「腕を振るのが大事なのか」と思うのではないでしょうか。

私はランニングのコーチをしていますが、初めてレッスンをする方のフォームチェックをすると、極端におかしな動きをする人がときどきいます。話を聞いてみると「走る時はももを上げる意識をしている」「腕を大きく振るのが良いと思っていた」などの答えが返ってきます。

ランニングの常識と思われているこもを見直してみるのが良さそうです。

「運動中に水を飲んではいけない」は常識?

以前は「運動中に水を飲んではいけない」と言われていました。学校の運動部の部活で指導者や先輩に「運動中に水を飲むな」と言われた方もいるのではないでしょうか。昔は「運動中に水を飲んではいけない」のが常識でした。今は「運動中に水分補給をする」のが常識になっています。

「運動中に水を飲んではいけない」のは何故?

昔の体育会系運動部で「運動中に水を飲んではいけない」と言われていたのは、単なる伝統による影響が大きいです。体育会系の練習で代々受け継がれていることは絶対的な力を持ちます。繰り返し言われ続けると自分の中での基準になります。

「運動中に水を飲んではいけない」ということが常識になっていくのです。

スポーツドリンクが「運動中に水を飲んではいけない」という常識を変えた

ゲータレードやポカリスエットなどのスポーツドリンクが「運動中に水を飲んではいけない」という常識を変えていきました。最初の頃は「運動中に水を飲んではいけないがスポーツドリンクは飲んでも良い」というものでした。

理由は「水を飲むと身体に負担がかかるが、スポーツドリンクは身体への吸収が良いので負担にならない」と言うものです。頭の固い体育会系の伝統に科学的なものを取り入れるきっかけになりました。

新しい常識は「運動中にスポーツドリンクは飲んでも良い」というものでした。

「運動中の水分補給は大切」が常識になった

現在では「運動中の水分補給」が常識になっています。汗を大量にかいて水分補給をしないと運動パフォーマンスが落ちると言われ、脱水症状になる危険があることは多くの人に知れ渡っています。

今の常識は「運動中の水分補給は大切」になりました。

水分のとり過ぎも良くない

一度に身体が吸収できる水分量は限られています。余分にとった水分は胃や腸に溜まってしまいます。水分のとり過ぎで腹痛を起こすこともあります。水分の摂り過ぎで吐き気、痙攣、意識障害などを引き起こすことがあります。水中毒と言われ、体内のナトリウム濃度が水分のとり過ぎで低くなると起こる現象です。

これからの常識は「運動中は状況に合わせて適度な水分補給をする」に変わるかも知れません。

常識は変わってゆく、今の常識が正しいとは限らない

ランニングに限らず、常識と言われていることは変わっていきます。水分補給に関しても、新しい情報が加わると常識が変わっていくかも知れません。今言われている常識が絶対に正しいと思い込まないことが大切です。

間違った情報に振り回されないためにはどうすれば良い?

今、常識としれている情報は間違っているかも知れません。ベテランランナーが言っていることも間違っているかも知れません。間違った情報に振り回されないためにはどうすれば良いのでしょうか。

情報を鵜呑みにしない

運動中の水分補給を例にあげましたが、ランニングフォームに関しても同じことが多くあります。一般的な常識とされていることが間違っていたり、曲解されて別な間違いを起こしているケースです。本やネット、人からのアドバイスで情報を仕入れることは良いのですが、鵜呑みにしないことも大事です。

有名な人、速い人が言うことは正しいと思ってしまいがちなので注意

本を出していたり、雑誌に出てくる有名コーチの言うことの力は大きいです。言ったことは正しいこととして読者に認識されていきます。周りのランナーで速い人の言葉も正しいと信じられる傾向があります。多くのランナーは速く走れるようになりたいと思うので、速いランナーの言葉には耳を傾けます。

速い人の言うことが正しいとは限りません。速い人には合っていることもゆっくり走る人には合わないこともあります。

いろいろな情報を仕入れて自分で判断する

フルマラソンの給水方法は気候条件によって変わってきます。同じ気温でも汗をかきやすい人と余りかかない人では補給が必要な水分量も変わってきます。個人差があるのです。適切な水分補給方法は、いろいろな情報を仕入れ、自分で試してみて総合的に判断するしかないのです。

初心者向けのフルマラソンの本やウエブサイトの情報には、「エイドには必ず寄って、コップ一杯程度の水分を補給する」と書かれているものもあります。初心者は明確な基準が欲しいので具体的な指示を書くのは良いのですが、実際には水分補給はケースバイケースです。気温が30℃を超えるような日のフルマラソンでは積極的な水分補給が大事になりますが、10℃を下回る日に水分をとり過ぎると胃や腸に水分が残ってしまい不快な思いで走ることになります。トイレが近くなり大きなタイムロスにもなります。

ランニングフォームで誤解しやすい情報

現時点で常識とされている情報はたくさんあります。絶対に正しい情報というものはありません。ランニングフォームの常識とされているもので、私が疑問に感じているものをあげました。

腰高フォーム

常識とされている意見

腰を高い位置でキープして走るのが良いフォーム。

私の意見

腰が高いままでは膝や股関節の動きを活かすことが出来ません。上下動が少なく腰の位置は横から見ると穏やかな波のような動きになるのが良いフォームです。

腕をしっかり振る

常識とされている意見

腕を振ることで推進力が得られる。

私の意見

動かしたいのは肩甲骨です。肩甲骨が動けば自然に腕が動くのです。腕だけを動かしてもリズムをとるために役立ちますが、推進力を得るための動きにはなりません。肩甲骨を動かす意識をすると体幹に動きが生まれ、推進力を生み出します。

足を上げて走る

常識とされている意見

足を上げることで前に進む力が生まれる

私の意見

短距離走では多少足を上げる意識が有効ですが、長距離を走る場合足を上げる意識をしない方が良いです。足は上げるのではなく動きの流れの中で自然に上がるものです。無理に足を上げようとすると全体のバランスが崩れます。

体幹がブレない

常識とされている意見

体幹をしっかり意識してブレないように走るのが良いフォーム

私の意見

体幹は軸になる部分と動かす部分があります。お腹周りは軸になる部分でブレないようにします。上半身の胸周り、下半身の骨盤周りは動かす部分です。動かすべき部分を固めてしまうと、ぎこちなく、躍動感の無い走りになってしまいます。

議論が分かれるランニングの情報

ランニングに関する議論の中で意見が分かれる情報もあります。今まで常識だったことが、新しい説により意見が分かれることもあります。

乳酸は疲労物質?

肯定派

激しい運動をして身体に疲労を感じると血中の乳酸濃度が高くなる。疲労と血中乳酸濃度には比例関係があり、乳酸は疲労物質だ。

否定派

乳酸は体内の脂肪や糖がエネルギーとして燃焼しようとして燃えきらなかった燃えカスのようなもの。激しい運動をすると血中乳酸濃度は高くなるが、乳酸自体が疲労物質という訳では無い。

私の意見

乳酸自体が疲労物質ではないという意見に賛成です。激しい運動をすると血中乳酸濃度が上がるのは事実です。運動直後の血中乳酸濃度を測れば、運動が身体に与えた負荷を測定するには役立ちます。乳酸が疲労物質だという根拠とは別な話です。

最近では、やはり乳酸は身体を酸化させるので筋肉の動きを悪くするという意見も出ています。

着地はかかとから?

肯定派

歩くときにかかとから着地するのは自然な動き。走るときも長い距離を走る場合はペースも遅いので歩きに近いかかとからの着地が自然な動き。

否定派

人間の本来のランニングフォームは裸足で走るときのフォームが理想。裸足で走るとかかとからの着地にはならない。前足部、中足部の着地が人間本来の理想の着地。

私の意見

着地は各ランナーの目的に合ったものを選べば良いです。故障をしないで長い距離を速く走れることが理想です。かかとから「ドン」と入る着地は動きにブレーキを掛けますし、膝や足首に負担が大きいです。

前足部で着地するフォアフォット走法は、速く走るには向いていますが、ふくらはぎに負担がかかったり、足の裏を痛めることがあります。足を置くように着地するイメージで着地をすると自然に中足部とかかとの間で着地することになります。

無理にどこの部分で着地をするという意識はしないで、置くようなイメージで自然に足がつくのが良いです。

速くなるにはインターバルトレーニング?

肯定派

速く走るためには心肺機能の強化が必要。インターバルトレーニングは心肺機能の強化に適した取れニングなので、速くなりたいランナーは積極的に取り入れるのが良い。

否定派

ランニング上級者が心肺機能をアップさせるにはインターバルトレーニング有効だが、初心者にインターバルトレーニングは不要。距離を走り込むトレーニングの方が効果がある。

私の意見

インターバルトレーニングは心肺機能の向上に有効です。心肺機能の向上のためには強度の設定が大切です。闇雲にダッシュとジョグを繰り返しても効果が薄いどころか故障をしてしまう危険があります。心肺機能が上がると速いペースで走っても呼吸が乱れ難くなります。

フルマラソンの記録向上を狙うなら、心肺機能を上げるだけでなく、持久力などもバランスよくトレーニングする必要があります。

速いランナーにLSDは不要?

肯定派

LSDは初心者ランナーには有効なトレーニングだが、速いランナーが行うとフォームが悪くなる。速いランナーはLSDをやらない方が良い。

否定派

LSDはどのレベルのランナーにも有効。普段使わない筋肉が鍛えられ、メンタルも鍛えられる。毛細血管が発達するので、筋肉に運ばれる血液量が増える。速いランナーにも有効なトレーニング。

私の意見

LSDはどのレベルのランナーにも有効なトレーニングです。ゆっくりペースでも姿勢を意識することで良いフォーム作りに役立ちます。毛細血管が発達によるパフォーマンスアップはどのレベルのランナーにもメリットがあります。

まとめ

ランニングに関して常識と言われていることでも鵜呑みにするのは危険です。常識が正しいとは限りませんし、自分には合っていないかも知れません。情報を集めて参考にするのは大切なことです。集めた情報を試してみて自分に合っているのか試すことが大切です。

ランニングは自分の身体で試すことができ、最良の方法を選択することができます。

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しゅうぞう

しゅうぞう

現役のランニングインストラクターです。パーソナルで教えたランナーは400人以上、レッスン時間は約2000時間になります。週2回のグループレッスンも担当。ランニング学会会員です。ランナー、ランニングインストラクターとしての経験を記事に発信します。自己ベストタイムはフルマラソン2時間57分30秒(2016年)、ハーフマラソン1時間22分3秒(2018年)。