酸素が薄い環境下で練習して心肺を強化する低酸素トレーニング、即ちハイアルチトレーニングは、実業団の選手等が高地に滞在してよく行っていますが、私達一般の市民ランナーにとってはあまり現実的なトレーニングでありませんでした。しかし近年は人工的に低酸素の環境を作ってトレーニングのできる施設が各地にできて、一般の市民ランナーでもハイアルチトレーニングが身近になってきています。そこでハイアルチトレーニングの効果と活用法について紹介していきます。
ハイアルチトレーニングで得られる効果
ハイアルチトレーニングで得られる効果としては、
- 持久力が向上する
- 疲れにくい身体に改善される
- ダイエット効果がある
主にこれらが挙げられます。次にそれについてもう少し詳しく説明をします。
ハイアルチトレーニングで持久力をつける
低酸素での環境下では体内に取り込める酸素の量が低下するが、人間には適応能力があってその環境に対応できるようヘモグロビンを活性化させることで、少しでも多くの酸素を取り込むようになります。トレーニングの後で通常の環境に戻ってもその状態が続く為、それが最大酸素摂取量(VO2max)の増加につながって、持久力が向上するのです。
ハイアルチトレーニングで疲労しにくい身体になる
低酸素の環境下では酸素が取り込みにくい為、エネルギー変換効率を高めなければならなくなります。体内でエネルギーを変換する働きをするのが細胞内にあるミトコンドリアで、ハイアルチトレーニングを行うとミトコンドリアが活性化されます。ミトコンドリアが活性化すると身体的に疲れにくくなります。
ハイアルチトレーニングで効率的にダイエットをする
女性にとってはとても嬉しい効果として挙げられるのがダイエット効果です。先に述べたミトコンドリアの活性化で、体内のエネルギー源である糖質や脂質が効率よく燃焼されて、効率的なダイエットにつながるのです。
ハイアルチトレーニングでの有効な練習方法
ハイアルチトレーニングを有効に行う事によって、効果が高まります。また、どういう点を意識するべきかをここで述べていきます。
SpO2は80~85%を目安にする
ハイアルチトレーニングではSpO2を測定する所が多いです。SpO2とは血中酸素飽和度で、血液中のヘモグロビンが酸素と結合している割合の事を言います。例えて言えば、バケツがヘモグロビンで水が酸素、バケツ満タンに水が入っている状態がSpO2が100%となり、それが90%以下になると酸欠状態であると言われます。
ハイアルチトレーニングではSpO2が85%、アスリートクラスでは80%を目安にしてトレーニングを行います。SpO2の下げ幅が大きくなる程、トレーニングの効果が上がります。通常、平地でトレーニングを行ったとしてもSpO2は95%、トップアスリートがかなり追い込んだトレーニングを行っても90%程度にまでしか下がりませんが、ハイアルチトレーニングでは一般の人でも90%以下に下げる事ができます。したがって85%を目安にトレーニングをするのが効率的です。しかしSpO2が80%を下回ると低酸素脳症や高山病になる恐れがあるので、もし下回ってしまうようであれば強度を落としましょう。
週2回はトレーニングを行いたい
ハイアルチトレーニングはできれば週2回、最低でも週1回は行うようにしたいです。ハイアルチトレーニングで活性化されたヘモグロビンやミトコンドリアはおおよそ3日間その状態が続きますが、日の経過につれてその効果は薄れてきて、10日でトレーニング前の状態に戻ると言われています。したがってトレーニングの3日後にトレーニングを繰り返す、すなわち週2回行うのが理想的です。週2回が厳しい場合でも10日経ってトレーニングの効果がなくならないうちにトレーニングを繰り返したいです。できればその合間にも軽い運動で心拍数を高めて、効果を少しでも維持しておくのがベストです。
ハイアルチトレーニングでの注意点
ハイアルチトレーニングは低酸素環境の条件下で行う為、身体への負担が大きくなります。その為、平地で行うトレーニング以上に注意してトレーニングを行う必要があります。そこで注意点を挙げていきます。
水分補給はこまめに行う
ハイアルチトレーニングではミトコンドリアが活性化されてエネルギー産出量が増加するので、通常より発汗量が多くなります。比較的涼しい室内でのトレーニングでも暑い環境と変わらないくらいの汗が出ます。したがってハイアルチトレーニングの時にはいつでも水分補給ができるよう、必ずペットボトル1本準備しておきましょう。大概のジムは飲料水が準備されていますので、忘れた場合は必ず購入しておきましょう。できれば5分おきには水分補給をしておきたいです。また、トレーニング前にも小さいペットボトル1本分の水分を補給するのもおすすめです。
体調が良くない場合のトレーニングは避ける
ハイアルチトレーニングは通常よりも強度が高いトレーニングです。したがって体調が悪い時にトレーニングを行うのは大変に危険です。特に避けたいのは
- 前日の睡眠時間が6時間以下の場合
- 飲酒から12時間を経過していない場合
- 血圧が正常範囲外の場合
- 風邪、疲労感が強い場合
以上の時はトレーニングは止めて、休息もしくは軽い運動にとどめていきましょう。
連日のトレーニングは避けたい
トレーニング効果が続いているうちに繰り返すとは言っても、ハイアルチトレーニングは強度が高いトレーニングですので、回復するまでどうしてもスパンが必要になります。その状態でトレーニングを行ったとしてもパフォーマンスが低下します。できれば3日間は空けるようにしましょう。レース前日のトレーニングもあまりお勧めできません。
トレーニング後は眠気に注意
ハイアルチトレーニングは低酸素環境で行うので、酸素不足になりがちです。したがってトレーニングの後に眠気が襲います。眠くなるとあくびが出るのは、体内の酸素が不足している為で、あくびをする事で大量に酸素を取り込もうとするからです。その為、電車に乗った場合の乗り過ごしや盗難、車の運転には特に注意しましょう。
最後に
今回、ハイアルチトレーニングについていろいろと書きました。2019年のノーベル医学生理学賞を受賞された研究内容が低酸素トレーニングに関連するようで、今後ハイアルチトレーニングが活発になるかもしれませんね。またせっかくジムでハイアルチトレーニングをやったならば、可能なら実際に高地に行ってトレーニングをやるのもお勧めしたいです。最後になりますが、私共々ハイアルチトレーニングを有効に行ってランニングに役立てたいものです。
C-hidebo1929
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