よく世間では「軟い筋肉の方がケガしにくい」だとか「硬い筋肉だとケガしやすい」だとか言われています。しかし、これらを科学的に証明するものは見つかっていないんです。
さらに、最近の順天堂大学の研究でこんなことが分かってきました。それは、短距離選手は硬く伸び縮みしにくい筋肉、長距離選手は軟く伸び縮みしやすい筋肉が良いとする研究結果です。
非常に興味深いですよね。今回はこの内容をテーマに解説していきたいと思います。
従来までに分かっていたこと
- 短距離選手は白筋繊維が多い
- 長距離選手は赤筋繊維が多い
- 中距離選手はサラブレッド型
短距離選手は白筋繊維が多い
短距離が速い選手は白筋繊維という筋肉の繊維が多いことが分かっています。名前から分かるように白っぽい筋繊維です。
白筋繊維は収縮力が大きく、収縮スピードも速い繊維です。しかし、細胞の呼吸に使われるミトコンドリアという物質の密度が小さく、酸素を効率良く取り込めないので、疲労しやすいです。
そのため、短時間で大きな力を発揮する短距離走に向いています。したがって、短距離が速い選手はこの繊維の割合が多いです。
長距離選手は赤筋繊維が多い
長距離が速い選手は赤筋繊維という筋肉の繊維が多いことが分かっています。名前から分かるように赤っぽい筋肉です。
赤筋繊維は収縮力が小さく、収縮スピードも遅い繊維です。こちらはミトコンドリアの密度が高いので、酸素を効率良く取り込むことができ、疲労しにくいです。
そのため、それほど大きくない力を長時間発揮する長距離走に向いています。したがって、長距離が速い選手はこの繊維の割合が多いです。
中距離選手はサラブレッド型
中距離が速い選手は今紹介した白筋繊維と赤筋繊維を絶妙なバランスで持っています。そのため、2つの筋繊維の良い部分を兼ね備えているというわけです。
さらに、中間筋繊維と呼ばれる筋繊維を多く持っていることも分かっています。中間筋繊維とは白筋繊維が遅筋のような性質を持つ繊維に変わったものです。
短距離走のように大きな力を出すことができる一方で、ある程度の持続力もあります。白と赤の中間であるピンク色をしています。
短距離選手は硬い筋肉が良い
- 短距離選手は硬い筋肉が良い
- 硬く伸び縮みしにくい筋肉の利点
- 硬く伸び縮みしにくい筋肉を作る
短距離選手は硬い筋肉が良い
短距離選手は硬い筋肉が良いということが分かりました。これは現役短距離選手22名の筋肉の硬さと100m走のタイムの速さとの間に関係が見られたことから分かったそうです。
筋肉が硬いほど100m走のタイムが速い傾向にあったのです。ここでの硬いとは単に筋肉を押したときの硬さではなく、伸び縮みしにくいという意味での硬さです。
硬く伸び縮みしにくい筋肉の利点
力を素早く効率よく伝えられる
筋肉が硬く、伸び縮みしにくいと地面に力を素早く効率良く伝えられます。鉄の棒とゴムの棒で地面を押す力を比較してみれば圧倒的に鉄の棒の方が大きな力を伝えられますよね。
反動が返ってきやすい
地面を押す力が大きいということは、その分の反作用としての力も大きいことになります。その分反動を得られ、バネのように次の一歩を踏み出せます。
短距離走を見たことがある人は分かると思いますが、短距離選手は非常にバネのある走りをしています
硬く伸び縮みしにくい筋肉を作る
短距離走
現在、白筋と赤筋の割合は生まれつき決まっているという説とトレーニングによって変えることができる説の2つが存在します。
筋繊維の割合は変えることができないとしても、トレーニングによって筋繊維の質は変えることができます。
当たり前ですが、短距離走を行えば白筋繊維が刺激され、繊維の1本1本が太くなります。すると、短時間で大きな力を発揮することができるようになります。
練習としては、100mを全力で10本行いましょう。こうして、短距離走に適した筋肉を作るのです。
筋トレ
硬く伸び縮みしにくい筋肉を作るには筋トレが良いです。それも短時間で大きな力を発揮するような筋トレです。
場合によっては器具を使っての筋トレも効果的でしょう。回数よりも一回一回の負荷を重視しましょう。
短距離選手には筋トレが必要で長距離選手にはあまり必要ないとよく言われます。それは単に筋力が必要であることに加えて、筋肉の硬さも必要であったというわけです。
長距離選手は軟い筋肉が良い
- 長距離選手は軟い筋肉が良い
- 軟く伸び縮みしやすい筋肉の利点
- 軟く伸び縮みしやすい筋肉を作る
長距離選手は軟い筋肉が良い
長距離選手は短距離選手とは逆に軟い筋肉、すなわち伸び縮みしやすい筋肉の方が良いことが分かりました。これは現役陸上長距離選手22名の筋肉の軟さと5000m走のタイムの速さとの間に関係が見られたことから分かったそうです。
筋肉が軟いほど5000m走のタイムが速い傾向にあったのです。
軟く伸び縮みしやすい筋肉の利点
省エネの走りができる
長距離走では短距離走のように短時間で大きな力を発揮することは重視されません。そのため、硬い筋肉であればその分余分なエネルギーが生成されてしまうということになるのです。
エネルギーを最小限に抑えたい長距離走では短距離走ほどの力は必要ないということです。
地面からの反発を抑えられる
短距離走では地面からの反発を利用したバネのある走りが求められます。しかし、長距離走ではそのようなバネはあまり必要なく、滑らかに前に進んでいくことが求められます。
その際に、地面からの大きな反発はランニング動作の妨げになってしまうということです。地面に乗せる力が小さい分、反発も小さく抑えることができます。
軟く伸び縮みしやすい筋肉を作る
長距離走
短距離走と同様に長距離走を行うことで長距離走に適した筋肉を作ることができます。
練習としては、10分以上のランニングを会話できるペースで行いましょう。慣れてきたら徐々に時間を増やしたり、ペースを上げたりしてみましょう。
ストレッチ
ストレッチで筋肉を伸ばし、ほぐすことで軟く伸び縮みしやすい筋肉を作ることができます。
ストレッチの中でも行うのは筋肉をゆっくりと伸ばしながら行う静的ストレッチです。
無理のない範囲で筋肉をじわじわと伸ばしましょう。息を止めずに自然呼吸で行なってください。
マッサージ
マッサージも筋肉も軟らかくするのに有効です。力をあまり入れすぎず、気持ちいい程度の強さで筋肉をほぐし、軟かくしましょう。
筋肉が軟らかくなったお風呂上がりが最適です。
※ここで注意してほしいのが短距離選手だからといってストレッチやマッサージをしてはいけない、長距離選手だからといって筋トレをしてはいけないというわけではないということです。割合を増やすという意味です。
誤解してしまうと故障に繋がりかねますので十分注意してください。
まとめ
以上、順天堂大学の研究によって明らかになった筋肉の質と専門距離との関係について紹介しました。やはり、短距離向けの筋肉の質、長距離向けの筋肉の質というものがあるんですね。
こういった筋肉についての研究は最近になって盛んに行われています。今後研究が進み、筋肉の作り方について劇的な進歩が生まれるのが楽しみですね。
現段階では短距離は硬い筋肉、長距離は軟い筋肉が高いパフォーマンスを生み出しやすいことが分かっています。
自分の筋肉の質を理解して、練習に取り組み、更なる記録向上に繋がることを祈っています。
maasa
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