ランニングが100倍楽しくなるLSDの効果と実践法

ランニング知識

ランニングを始めようか、あるいは始めたばかりの人、ようこそ!どうせ走るなら、楽しく、効果的に走りたいですよね?!私もそうだったのですが、走り始めた頃は何をどうしたらいいのかわからずにただ走っていた経験があります。今考えるととてももったいないことをしました。

今回のLSDというトレーニング方法、お聞きになったことがあるかもしれません。LSDという方法、初心者とベテランでは目的と効果が違います。今回は初心者の方を対象に効果および実践法を解説していきます。

読めば私と同じ失敗をしなくて済みます。なにより走ることが楽しくなるでしょう。

LSDとは?

“長距離をゆっくり走る”ことがランニング初心者に最も効果的である

LSDとは、ドイツのスポーツ医学博士 エルンスト・アーケン博士が考案し、アメリカの陸上のコーチジョー・ヘンダーソンが1969年に発表した「LONG SLOW DISTANCE」がきっかけとなって世界に広がりました。それぞれの単語の頭文字を使った造語です。

また、マラソンランナーで南アフリカケープタウン大学の運動科学名誉教授のティム・ノックス博士は以下のように述べています。

アーサー・ニュートンが提唱した「長い距離をゆっくりとしたペースで走ること」が、ランニングを始めたばかりの人に最も効果的であることを示唆した。

引用・参考:ウィキペディア LSD

アーサー・ニュートンはイギリス人ランナーで、ウルトラマラソン(42.195kmよりも距離が長いマラソン)で5回の優勝経験をもちます。LSDは世に出てから50年経た理論ですが、今でも初心者からベテランのランナー、アスリートレベルの人達にも支持されている信頼性の高いトレーニング方法と言えます。

走るのだから苦しいのでは?

走る,というと苦しいというイメージがありますが、LSDは違います。LSDを実際に行ってみれば、ゆっくりと走ることが快適で楽しいと感じることができるでしょう。そしてLSDを行えば、色々といいことがあります。

今回はLSDの効果を紹介し、その後実践法について説明していきます。

LSDの主な5つの効果

LSDを行うと心身に良い変化が現れますが、主なものは以下の5つです。

  1. ダイエット効果
  2. 血圧が下がる
  3. 毛細血管が発達し、持久力が上がる
  4. フルマラソンのような長距離を走るための足ができる
  5. ストレス解消になる

ダイエット効果

消費カロリーが同じ距離を歩くよりも高く、運動習慣がない人なら痩せます。また、脂肪燃焼効果が高いのも特徴です。ウォーキングと同じペースで走る場合でもその消費カロリーは歩く場合に比べて2倍見込めるのです。

参考・出典:福岡大学スポーツ科学部教授 田中宏暁 2010年10月発行「スロージョギング健康法」 朝日新聞出版

血圧が下がる

高血圧の原因にもよりますが、LSDを続けていると血圧はだんだんと下がってきます。その理由は医学博士で日本体育協会認定スポーツドクターの長尾光城さんによると、軽い運動で足や腕の血管(末梢血管といいます)への流れにくさが減る可能性があり、結果として血圧が下がるとのことです。

論文では上の血圧で5~25mmhg、下の血圧で3~15mmhg下がったという報告もあります。(前出:長尾光城ドクター)

参考・出典:健康とスポーツを科学する

但し高血圧の治療中の方は必ずお医者さんに相談してから始めるようにしてください。

毛細血管が発達し、持久力があがる

ランニングを始めたては、誰でも息がきれるのではないでしょうか。LSDは長く、ゆっくりと走ります。そうすることで心拍数がわずかに高い状態が続きます。その結果、血液が体の隅々までゆきわたり、体各部位の毛細血管が広がっていきます。

毛細血管が広がると、持久力(全身持久力)が上がります。持久力は、最大酸素摂取量が指標になります。運動習慣がない人は酸素摂取量が少なくなっています。

酸素摂取能力を向上させる一番良い方法は「LSD」をすることだ。LSDをすれば筋肉の酸素摂取能力を向上につながる

引用:ダニー・ドライヤー 監訳 金 哲彦 訳 柏木 幹男  2008年5月発行 「無理なく走れる<気>ランニング」大修館書店

ダニードライヤー氏は、ランニングに東洋の思想を取り入れ、ランニングコーチとして高い評価を受けた人です。監訳の金哲彦氏は、アテネオリンピック金メダリスト高橋尚子さんの元コーチです。

フルマラソンのような長距離を走るための足ができる

筋肉は細い繊維の束です。筋肉には主に持久力に優れた遅筋と素早く収縮する速筋がありますが、長距離を走るには遅筋の働きが大きくかかわってきます。オリンピックマラソン2大会連続メダリストの有森裕子さんは、LSDの効用として遅筋の繊維が増えるといっています。マラソンのような長距離を走るには、LSDトレーニングが欠かせないということですね。

参考・出典:有森裕子 疲労回復トレーニング法、「LSD」の勧め

ストレス解消になる

体を動かすとすっきりしますが、最近では運動しかもゆっくりとした運動が効果が高いことが様々な研究で分かってきています。走ることで、うつや認知症になる危険性が下がるという研究結果もあるとのことです。精神科医・川野泰周さんは、前向きになるにはLSDは効果的であるとおっしゃっています。

参考・出典:走れば人生うまくいく。 お寺の住職が教えてくれた“心が整う”ランニングのすすめ

ゆっくり走ることは心と体によいことがわかりますね。

LSDを始める前の準備

LSDの効果がわかると走りたくなりますよね?しかし、ゆっくり走るといってもほとんど走ったことがない人が走り始めるのは怪我につながりかねません。LSDに欠かせないアイテムの選び方を紹介します。

LSDに適したランニングシューズの選び方

まずは靴です。お手持ちの運動靴でも大丈夫かもしれませんが、LSDは走る時間が長いため靴にはこだわってください。長時間走ると、足がわずかに大きくなるため、ピッタリのサイズは避けてください。靴を選ぶときには親指を中心に足の指が動かせるかどうかを確認してください。

衝撃を吸収するために、LSD用には底が厚いランニングシューズを選んでください。今お持ちのシューズが適していなければ、靴を変えた方がいいでしょう。マメや怪我の原因になります。

参考・出典:浅井えり子 1997年6月 「新・ゆっくり走れば速くなる」株式会社 ランナーズ(浅井えり子:ソウルオリンピックマラソン日本代表)

LSDに適したウェア選び 4つのポイント

せっかくですから、自分がそれを着たときに走りたくなるようなデザインを選んでください。但し、長い時間を走るため注意点があります。

  1. 通気性
  2. 伸縮性
  3. 気候の変化に対応できるもの
  4. 紫外線対策

通気性

通気性の悪い服で走ると汗でべたついてせっかくのLSDを不快にしてしまう可能性があります。最近では、通気性のよいランニングウェアが豊富に用意されています。お気に入りのデザインが必ず見つかるでしょう。各メーカーで独自の素材を開発していますから比べてみるのもいいかもしれません。

伸縮性

伸縮性もランニングウェアには欠かせない機能です。伸縮性がないと腕の動きを邪魔してやはりLSDの楽しみを半減してしまう可能性があります。

気候の変化に対応できるもの

長時間走るわけですから、事前に天気予報を確認してからスタートするのはもちろんですが、万一に備えて気候の変化に対応できるものも用意しておくと便利です。持ち歩きができる防水性の高いウインドブレカーがおすすめです。

LSDの際に、雨に当たって体を濡らすは避けてください。疲労がたまった状態で、体が濡れると体調を崩す原因になりかねません。

紫外線対策

ランナーの中には、紫外線を気にしない方も多いようですが、最近は地球環境の変化もあって紫外線が昔よりも強くなっています。ウェアの中には紫外線対策をしたものが増えてきています。ぜひ、探してみてください。

また、帽子もかぶるようにした方がベターです。中には暑くて帽子をかぶらないランナーも見かけますが、最近では一流ランナーでもかぶる人が増えてきています。ランニングを長く続けるには、必須のアイテムでしょう。

安全に走るために、体重を確認しましょう

体格の指標を現すBMIという考え方があります。BMIの計算式は体重(kg){/身長(m)*身長(m)}です。BMIが25を超えている場合、控えた方がよいかもしれません。ダイエット目的の方は自転車や水泳のような膝に負担の少ない運動で体重を減らしてから行う方がよいでしょう。

参考・出典:太っているのにランニングをしてもいい?

LSDの具体的な実践方法

走る最初の日は、天気の良い日がよいでしょう。あなたのランニングのスタートにふさわしいと思える日を選んでください。

LSDの速さは?

LSDを行う際、スピードはとても重要な要素です。LSDのスピードは一般的には1キロ当たり7~8分がよい、または走りながらおしゃべりができる程度の速さとも言われます。ただこれらは、個人の実力差や具体性に欠けます。

最も信頼できるのは心拍数(心臓が1分間に何回動く回数)を基準とする考え方です。LSDで目標とする心拍数は、最大心拍数の約60~70%です。最大心拍数とは個人が全力で運動した時の心拍数です。

しかし、最大心拍数を測定するとなると、全力で運動しなければなりませんし、危険なこともあるため、個人でやることはおすすめしません。代わりに最大心拍数を推定する方法があります。最大心拍数は「208-0.7*年齢」の計算式で求められます。

上記の方法は「メタ解析法」(多数の論文の中から信憑性のあるものだけを集め解析する方法)で決められたものです。但し、最大心拍数に個人差が大きく、各年齢において標準偏差が±10拍位あるため、最初は求めた心拍数を目標に行ってみて走りながら調整してください。

参考・出典:運動強度を設定する 最大心拍数の算出方法は?

この式を使うと、40歳の方の最大心拍数は 208-0.7*40=180ということになります。これの60~70%ですから目指す心拍数は 180*0.6~180*0.7=108~126ということになります。

心拍数が目標数値になるような速さで走ってください。そして大事なことは、心拍数を維持しながら走るということです。

心拍数のはかり方

LSDを行う際に目標とする心拍数がわかりました。次は測定の方法です。最近では腕時計に心拍計がついているものが発売されており、それを使うのが一番簡単ですが、お持ちでない方も多いと思います。以下に簡易的に測定する方法を紹介します。

<心拍数の簡易な測定方法>

  • 10分程気持ちよく、おしゃべりができる速さで走り、一度止まります
  • 片側の手首に逆の手の中指と人指し指をあてて15秒間計測します。
  • 計測した値を4倍したのが、その時の心拍数です。
  • 心拍数が目標数よりも小さければ、スピードをアップ、逆の場合は遅くします。

参考・出典:脈拍の測定方法

他には、スマホには拍測定アプリが用意されているため、スマホで測定する方法もあります。但し、走りながら測定すると危険なため必ず一旦止まってから行うようにしてください。

走る時間は?

一般的には1.5~2時間以上といわれていますが、ランニングをほとんどしたことがないような方がいきなりそんな長時間走ってしまうと怪我をしてしまいます。運動習慣のない人は、30分程度から始めた方が無難です。

また、体脂肪燃焼の観点からいえば、もっと短い時間でも効果があるようです。最も大事なことは継続することです。

「毎日少しずつでも運動し続けることが大切です。週1回、1時間ジョギングするより、毎日15分ジョギングする方が運動量が多く、消費カロリーも高くなります

引用:体脂肪の燃焼には「20分以上の有酸素運動を」という迷信

わずかずつでもいいので、走る時間を延ばしてください。継続すれば、必ず長時間走ることができるようになります。スピードも速くなっていきます。またLSDを行うときは距離ではなく、時間を目安にしてください。距離で考えてしまうと、早く終わりたいという気持ちになりスピードの維持が難しくなります。

フォームは気にしなくていいの?

ゆっくり走るとどうしてもだらだらしたフォームになってしまいがちです。LSDで最も難しい部分がフォームです。しかしだからこそLSDこそフォーム作りに最適な練習であるともいえます。

フォームに関しては、以下のサイトが参考になります。

参考:マラソン・長距離で疲れない走り方をマスターしよう

この他の注意点としては、体を前傾させること、前傾させた分、目線は前方に合わせてわずかに下になりますが、目線を下にしすぎると猫背になるため注意して下さい。

LSDでの陥りやすい失敗

速く走ってしまう

LSDを継続して行っていくと、同じ心拍数でもスピードが上がっていきます。気づくと目標心拍数を超えてしまっていることが多く見られます。特にLSDを始めて慣れたころにやってしまいがちになります。

慣れてくると、スピードを上げても体感的には何の問題も感じないことがほとんどです。走りながらスピードが速いな、と感じるときは一度心拍数をチェックする習慣をつけるようにするとよいです。

つい頑張りすぎてしまう

LSDを続けていると走ることが楽しくなってきます。この段階で陥りやすいのがやりすぎです。やりすぎてしまうと怪我や体調不良の原因になります。目安としては、最初は2日に1度程度でよいでしょう。慣れてきてLSD以外の練習も行うようになれば、最大でも週に1回にしてください。

必ず体の状態と相談しながら行って下さい。疲労感があるときは、無理は絶対にしないことです。

参考:会話ができるペースで走るだけ! 脂肪燃焼に効果的な“LSDラン”って何?

まとめ

LSDはトレーニング方法として登場した当時は画期的なことだったようです。多数のランナー達がLSDを練習に取り入れ、自己記録を更新してきました。また、長い時間をかけて、長距離を走ることができる動物は人間だけだという説もあります。アメリカで大ベストセラーになった「BORN TO RUN」(走るために生まれた)の一文を紹介します。

我々は走るために生まれた。走るからこそ生まれた。誰もが走る民族なのである。

ゆっくり長く走ることは、人間にとって原点へ回帰するための手段なのかもしれません。

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